AP科目A 34 — 無線LAN:CSMA/CA、隠れ端末、チャネル設計からWPA3・802.1Xまで

応用情報技術者試験 科目Aの補足編。無線LANのAP・SSID、CSMA/CAと隠れ端末・RTS/CTS、2.4/5/6 GHzのチャネル、Wi-Fi 4〜6E・MIMO・ローミング・HaLow、WPA2/WPA3・802.1Xのセキュリティ境界を、計算例とオリジナル問題5問で整理します。

応用情報技術者試験科目A無線LANネットワーク技術要素

AP科目A・第34回 · 2026年度・シラバスVer.7.2に基づく独立した学習資料です。IPAとの提携はなく、合格を保証しません。 シリーズ一覧を見る

2026年IPA応用情報技術者試験(AP)科目A、シラバスVer.7.2を基準とし、2026-10-22確認。Motitoryの独立した学習資料であり、IPA、IEEE、Wi-Fi Allianceとの提携やこれらによる承認・確認はない。Ver.7.2の全範囲やIEEE 802.11規格の全体を網羅せず、合格を保証しない。本文の例題と問題はすべてMotitoryのオリジナルで、IPAの過去問題ではない。

学習インデックス

  1. 用語と世代の早見表
  2. 構成要素と二つのモード
  3. SSIDとBSSID
  4. 共有媒体と半二重通信
  5. 衝突回避のアクセス制御
  6. 隠れ端末とさらし端末
  7. 周波数帯とチャネル設計
  8. マルチアンテナとマルチユーザ技術
  9. ローミングとハンドオーバー
  10. メッシュWi-FiとWi-Fi HaLow
  11. セキュリティの境界
  12. クイックシートと落とし穴
  13. オリジナル診断5問
  14. セルフチェックと復習スケジュール
  15. 公式出典

本記事は固定の仕上げ計画AP33–38のうち**AP34(補足編)**であり、シリーズ最後の記事ではない。全回はシリーズ一覧で確認できる。OSI階層・TCP/UDP・ポートはAP16、IPv4・CIDR・ルーティングはAP17、DNS・HTTP・TLS・メールはAP18で扱ったので、ここでは再説明しない。無線区間(物理層とデータリンク層)に固有の内容だけを扱う。

1. 用語と世代の早見表

日本語(試験用語) English 한국어 一行定義
無線LANアクセスポイント(AP) access point 무선 LAN 액세스 포인트 無線端末を束ね、有線LANと中継する基地局
インフラストラクチャモード infrastructure mode 인프라스트럭처 모드 端末がAPを経由して通信する方式
アドホックモード ad hoc mode (IBSS) 애드혹 모드 APなしで端末同士が直接通信する方式
SSID service set identifier SSID 人が選ぶネットワーク名(最大32オクテット)
BSSID basic service set identifier BSSID 一つのBSSを指す48ビットの識別子
隠れ端末問題 hidden terminal problem 숨은 단말 문제 互いに聞こえない2台が同じ受信者へ同時に送って衝突する
さらし端末問題 exposed terminal problem 노출 단말 문제 送っても問題ないのに他者の送信が聞こえて不要に待つ
CSMA/CA carrier sense multiple access with collision avoidance CSMA/CA キャリアセンス+ランダムバックオフ+ACKで衝突を避けるアクセス制御
ローミング roaming 로밍 同じ無線LAN内で端末が接続先APを切り替えること
ハンドオーバー handover 핸드오버 通信を保ったまま基地局(AP)を切り替えること
IEEE規格 Wi-Fi Allianceの世代名 周波数帯 代表的な技術 規格上の最大PHY速度(理論値)
802.11b 公式な世代名なし 2.4 GHz DSSS/CCK 11 Mbps
802.11a 公式な世代名なし 5 GHz OFDM 54 Mbps
802.11g 公式な世代名なし 2.4 GHz OFDM 54 Mbps
802.11n Wi-Fi 4 2.4 / 5 GHz MIMO(最大4ストリーム)、40 MHz幅 600 Mbps
802.11ac Wi-Fi 5 5 GHzのみ 最大160 MHz幅、下りMU-MIMO 約6.9 Gbps
802.11ax Wi-Fi 6 2.4 / 5 GHz OFDMA、上り・下りMU-MIMO 約9.6 Gbps
802.11ax Wi-Fi 6E Wi-Fi 6に6 GHzを追加 Wi-Fi 6の技術を6 GHzでも使用 約9.6 Gbps
802.11ah Wi-Fi HaLow 1 GHz未満(国ごと) 狭いチャネル、長距離・低消費電力 低い(IoT向け)
  • 最大PHY速度は最良条件(最大チャネル幅・ストリーム数・変調)での物理層の理論値である。実際のスループットはこれよりかなり低い(計算例3)。
  • すべての世代がすべての帯域に対応するわけではない。802.11acは5 GHzの規格なので、デュアルバンドのWi-Fi 5機器でも2.4 GHzでは802.11n以前で動作する。6 GHzにはWi-Fi 6E以降に対応したAPと端末の両方が必要で、その国で6 GHzが認められている必要もある。
  • 802.11be(Wi-Fi 7)など以降の世代は本記事の範囲外とする。

2. 構成要素と二つのモード

  • STA(ステーション): 無線LANインタフェースを持つ端末(ノートPC、スマートフォンなど)。広い意味ではAPもSTAの一種である。
  • 無線LANアクセスポイント: 無線端末を束ね、通常は有線LAN(イーサネット)とつないでフレームを中継する。
  • BSS: 一つのAP(または一群の端末)が作る基本単位。ESS: 同じSSIDを使う複数のBSSを、有線などの分配システムで束ねたもの。
区分 インフラストラクチャモード アドホックモード
AP 必要 不要(IBSS)
通信経路 端末 → AP → 端末または有線 端末 ↔ 端末を直接
拡張 ESSで広い範囲、AP間ローミング 小規模・一時的
管理 APでセキュリティ・接続ポリシーを一括適用 端末ごとに設定

なお、Wi-Fi Directは端末の一つがグループオーナーとしてAPの役割を担う方式なので、古典的なアドホック(IBSS)と同じではない。

3. SSIDとBSSID

項目 SSID BSSID
意味 ネットワーク名 一つのBSSの識別子
形式 0〜32オクテットの文字列 48ビット(MACアドレス形式)
誰が決めるか 管理者が設定 通常はAPの無線インタフェースのMACアドレス
複数APでは ESS内では同じSSIDを共有 AP(無線インタフェース・SSID)ごとに異なる
  • SSIDは認証ではない。 SSIDは「どのネットワークに接続するか」を選ぶ名前にすぎず、接続者を確認しない。
  • SSIDステルス(ビーコンにSSIDを載せない)もセキュリティ対策ではない。 端末のプローブ要求や接続手順のフレームにSSIDが載るので観測できる。MACアドレスフィルタリングも、MACアドレスを偽装できるため認証の代わりにならない。実際の接続制御と暗号化は11節のWPA2/WPA3が担う。

4. 共有媒体と半二重通信

同じチャネルを使う無線端末は一つの電波空間を分け合う。端末の無線部は一つのチャネルで送信と受信を同時に行わない半二重で動作し、同時刻に二つの信号が受信者で重なると両方とも失われうる。そのため、誰がいつ送るかを決めるメディアアクセス制御が必要になる。

有線イーサネットのCSMA/CDは「送信しながら衝突を検出したら止めて再送する」方式である。無線LANでこれが答えにならない理由:

  1. 送信中は衝突を検出しにくい。 自分の送信信号が受信機の入力で圧倒的に強く、同じチャネルの他の信号を同時に聞きにくい。
  2. 衝突は送信者ではなく受信者で起きる。 6節の隠れ端末のように、送信者の位置では媒体が空いて見えても、受信者では重なることがある。

そこで無線LANは衝突を**検出(CD)する代わりに回避(CA)**し、成否をACKで確認する。(参考:スイッチに全二重で接続する現代のイーサネットでは、CSMA/CDは事実上使われない。)

5. 衝突回避のアクセス制御

CSMA/CAの基本動作(即時アクセスの例外を含む簡略DCFモデル):

  1. キャリアセンス: 送るフレームができたら、媒体が空いているかを聞く(物理的な検知+NAVによる仮想的な検知)。
  2. アクセス経路の選択: 新しいフレームが送信待ちになった時点で、媒体が既にDIFS以上空いていれば、DCFでは新たなランダムバックオフを選ばず即時送信できる。媒体が使用中だった場合、またはフレームが待機・再送状態なら、次の競合経路を使う。
  3. 待機後のDIFSとランダムバックオフ: 媒体が空いてからDIFSを待ち、0〜CWの範囲で無作為なスロット数を選んでカウントダウンする。媒体が空いている間だけ減り、使用中になると止まり(凍結)、再びDIFSの間空いてから続きを減らす。
  4. 送信: 2の即時アクセス条件を満たすか、バックオフカウンタが0になったら送信する。
  5. ACK: 受信者はSIFS後にACKを返す。SIFS < DIFSなので、ACKは他端末の新しい送信より優先される。
  6. 再送: ACKが来なければ衝突または誤りとみなし、CWをおおむね2倍に広げて(上限あり)再送する。再試行上限を超えたら諦める。

CSMA/CAは衝突を減らすものであり、なくすものではない。2台が同じバックオフ値を選べばやはり衝突する。QoS対応の無線LAN(EDCA)はトラフィック種別ごとに待ち時間とCWを変えるが、原理は同じである。

6. 隠れ端末とさらし端末

隠れ端末問題: 端末AとCはどちらもAPとは通信できるが、壁や距離のせいで互いの電波が聞こえない。Aの送信中もCのキャリアセンスでは媒体が空いて見えるのでCも送信し、二つの信号はAPで衝突する。送信者AとCは衝突に気づかず、ACKが返ってこないことで初めて失敗を知る。

RTS/CTS: 送信者はデータの前に短いRTSを送り、受信者(AP)がCTSで応える。両フレームには残りのやり取りに必要な時間(Duration)が入っており、これを聞いた端末はその時間だけNAV(仮想キャリアセンス)を設定して送信を控える。CはAのRTSが聞こえなくてもAPのCTSは聞こえる、という点が要である。

共通の前提(計算例1・3)

試験向けの単純化モデルである。実際の値は規格・速度・帯域によって異なる。

  • SIFS 16 µs、DIFS 34 µs、スロット 9 µs
  • データフレーム時間 = プリアンブル・ヘッダ 40 µs + ペイロードのビット数 ÷ PHY速度
  • RTS 30 µs、CTS 27 µs、ACK 27 µs(プリアンブル込み)
  • 伝搬遅延と誤りは無視する。

計算例1 — 隠れ端末とRTS/CTS

Aが1,500バイトのペイロードをPHY速度100 MbpsでAPへ送る。CはAPの信号は聞こえるが、Aの信号は聞こえない。

  1. データフレーム時間:1,500 × 8 = 12,000ビット、12,000 ÷ 100 Mbps = 120 µs。これに40 µsを足してDATA = 160 µs。
  2. CTSのDuration(CTSの後に残るやり取り)= SIFS + DATA + SIFS + ACK = 16 + 160 + 16 + 27 = 219 µs。CはCTSを聞いた時点から219 µsの間NAVを立て、送信しない。
  3. RTSのDuration(RTSの後に残るやり取り)= SIFS + CTS + 219 = 16 + 27 + 219 = 262 µs。Aの近くの端末はこの値でNAVを立てる。
  4. 保護のコスト:RTS 30 + SIFS 16 + CTS 27 + SIFS 16 = 89 µsが毎回のやり取りに加わる。
  5. 判断:RTS/CTSなしで衝突すると160 µsのDATAが丸ごと無駄になり、バックオフ後に再送する。RTS同士が衝突しても失うのは30 µsだけである。逆にペイロードが100バイトならDATA = 40 + 8 = 48 µsで、保護コスト89 µsのほうがデータより大きい。そのためRTS/CTSは通常、一定サイズ(RTSしきい値)以上のフレームにだけ使う。

さらし端末問題: BがAへ送信中で、Bの近くにいるCが、Aから遠く離れたDへ送ろうとしている。Cの送信はAの受信を妨げないかもしれないが、CはBのキャリアを検知して待つ。結果は衝突ではなく**機会損失(スループット低下)**である。注意点:

  • RTS/CTSはさらし端末を解決しない。CがBのRTSを聞けば、NAVで同じように待つ。
  • 「そのまま送らせればよい」も正解ではない。802.11は送信後にACKを受け取る必要があるが、Bの送信中はCの周囲がBの信号で埋まっており、DからのACKを受信できないことがある。

7. 周波数帯とチャネル設計

帯域 一般的な利点 一般的な欠点・注意
2.4 GHz 同じ条件なら到達距離・障害物の回り込みで有利、対応機器が多い チャネル数が少なく重なる、Bluetooth・電子レンジなどと共存
5 GHz 重ならないチャネルが多く、広いチャネル幅が可能 同じ条件なら到達範囲が短めで、一部チャネルはレーダー回避(DFS)によりチャネル変更・待ちが発生
6 GHz 認められた国では新しく広い周波数で、旧機器と混在しない Wi-Fi 6E以降の機器が必要、同じ条件なら到達範囲が短め、許可範囲・出力条件は国ごと

上の長所・短所は「同じ出力・アンテナ・環境なら」という傾向であり、絶対的な規則ではない。実際の性能は壁の材質、干渉、機器の性能に左右される。

国・規制の注意: 使えるチャネル、屋内・屋外の条件、最大出力、DFSの要否は国によって異なる。設計の前に、現行の現地電波規制と機器認証を確認する。本記事は特定国のチャネル一覧を示さない。

チャネル幅のトレードオフ: チャネル幅を20 → 40 → 80 → 160 MHzと広げると最大PHY速度は上がるが、同じ帯域に置ける重ならないチャネル数は減り、雑音も広く受ける。APが密な事務所では、狭いチャネルを複数に分けて使うほうが全体のスループットに有利なことがある。

計算例2 — 2.4 GHzのチャネルの重なり

前提:2.4 GHzのチャネルn(1〜13)の中心周波数 = 2407 + 5n MHz、占有幅20 MHz(OFDM基準。DSSSの802.11bは約22 MHz)。

チャネル 中心 占有範囲
1 2412 MHz 2402〜2422 MHz
4 2427 MHz 2417〜2437 MHz
6 2437 MHz 2427〜2447 MHz
11 2462 MHz 2452〜2472 MHz
  • チャネル1と4:2417〜2422 MHzが重なる → 5 MHzの重なり。互いを干渉として受け、両方が損をする。
  • チャネル1と6:2422と2427の間に5 MHzの間隔 → 重ならない。チャネル6と11も同様。
  • この単純な長方形幅モデルでは、20 MHzの中心が20 MHz以上、つまりチャネル番号が4以上離れていれば占有範囲は重ならない(4差ちょうどで境界が接する)。モデル上の22 MHz幅なら5以上である。実際のスペクトルマスクは鋭い長方形ではないため、ここでは広く対応する1/6/11だけを実務例とし、現地のチャネル規則は別途確認する。
  • 結論:隣接するAPが3台なら1、6、11に分けて配置する。2.4 GHzで40 MHz幅を使うと、重ならずに置けるチャネルはほとんど残らない。

計算例3 — エアタイムと実効スループット

共通の前提に加えて:RTS/CTSは使わない、衝突・誤りなし、バックオフは毎回7スロット(=63 µs)に固定、フレームの集約(アグリゲーション)なし。

1フレームの固定時間 = DIFS 34 + バックオフ 63 + プリアンブル・ヘッダ 40 + SIFS 16 + ACK 27 = 180 µs。ペイロードは1,500バイト(12,000ビット)。

ケース ペイロード時間 1フレームの合計時間 実効スループット
(a) PHY 100 Mbps、端末1台 120 µs 300 µs 12,000 ÷ 300 µs = 40 Mbps
(b) PHY 200 Mbps、端末1台 60 µs 240 µs 12,000 ÷ 240 µs = 50 Mbps
(c) 100 Mbpsの端末Xと20 Mbpsの端末Yが1フレームずつ交互に送信 X 120 µs、Y 600 µs 300 + 780 = 1,080 µs(2台の合計) 24,000 ÷ 1,080 µs ≒ 22.2 Mbps(各約11.1 Mbps)
  • (a)→(b):PHY速度を2倍にしてもスループットは1.25倍。固定オーバヘッドが減らないからである。PHY速度 ≠ スループット。
  • (c):単独なら40 Mbpsを出せたXが、遅いYとチャネルを分け合うと約11.1 Mbpsに落ちる。遅い端末がエアタイムを長く使うためである。そのため、古い規格や遠い端末を減らしたり帯域を分けたりする設計が効果的になる。
  • 実際の802.11n以降は、複数フレームを束ねて(A-MPDU)オーバヘッドを分け合うことで効率を高める。上の数値は原理を確かめるためのモデルである。

8. マルチアンテナとマルチユーザ技術

技術 何を分けるか 効果 最初に広く使われた世代
MIMO(SU-MIMO) 空間:複数アンテナで複数ストリームを1台の端末へ 最大速度の向上(空間多重)、ダイバーシティによる安定化 802.11n
MU-MIMO 空間:同じ時間に複数の端末へ別々のストリーム 多数の端末への同時送信 802.11ac(下り)、802.11ax(上り・下り)
OFDMA 周波数:チャネルをリソースユニット(RU)に分け、複数端末へ同時に割り当て 小さなフレームが多いときの待ち・オーバヘッドを削減 802.11ax
ビームフォーミング 方向:アンテナごとの位相・振幅を調整し、特定の端末の方向へ信号を集中 SNR向上 → より高い変調・安定性 802.11nで規定、相互運用可能なexplicit beamformingは802.11acで広く普及
  • 使えるストリーム数は両者のうち少ない側で決まる。4×4のAPと2×2のスマートフォンなら、そのスマートフォンとは最大2ストリームである。
  • ビームフォーミングはストリームを増やす技術ではなく、OFDMAはアンテナを増やす技術ではない。試験では「空間・周波数・方向のどれを扱うか」で区別する。

9. ローミングとハンドオーバー

  • 無線LANのローミング: 同じESS(同じSSIDとセキュリティ設定)の中で、端末が別のAPへ再接続すること。いつどのAPへ移るかは基本的に端末が決める。 電波が弱くなっても元のAPにつながり続ける「スティッキークライアント」が生じるのはこのためである。
  • APやコントローラは補助役である。802.11kは近隣APの一覧を知らせ、802.11vは別のAPへ移るよう要求できるが、端末が従わないこともある。802.11r(高速BSS遷移)は移動時の鍵交換を減らし、802.1X認証を使う環境で途切れを短くする。
  • 移動体通信のハンドオーバー: 通信を保ったまま基地局を切り替えること。セルラー網では、端末の測定報告をもとにネットワーク側が主導するのが一般的である。
  • 用語の注意:移動体通信でローミングといえば、通常は「他の事業者の網(例:海外)を利用すること」を指す。無線LANのAP間ローミングとは意味が違うので、文脈で判断する。

10. メッシュWi-FiとWi-Fi HaLow

メッシュWi-Fi: 複数のノード(AP)が互いに中継し、広い範囲を一つのSSIDで覆う。ノード間の接続(バックホール)は無線または有線である。

  • 無線バックホールは同じデータをもう一度空中へ送るので、エアタイムを余分に使う。一つの無線部が同じチャネルで受信して送り直すと、理想的な場合でも中継区間のスループットはおおむね半分になる。バックホール専用の無線部や有線バックホールがあれば、この損失は小さくなる。
  • IEEEにはメッシュ機能(802.11s)が定義されているが、市販のメッシュ製品はメーカー独自方式やWi-Fi Allianceの相互接続プログラムを使うこともある。

Wi-Fi HaLow(IEEE 802.11ah): 国ごとに定められた1 GHz未満の免許不要帯を使う無線LANで、狭いチャネルにより長距離・低消費電力を狙う。対象はセンサやメータのようなIoTで、速度は2.4/5 GHzの無線LANより低い。家庭向けの高速Wi-Fiを置き換える規格ではなく、2.4/5 GHz専用の一般的な端末はHaLowに接続できない。

11. セキュリティの境界

方式 接続の認証 無線区間の暗号化 防げるもの 防げないもの・注意
オープン(暗号化なし) なし なし — 誰でも接続でき、同じ場所の誰でも平文を盗聴できる
Enhanced Open(OWE) なし あり(端末ごとに鍵交換) 受動的な盗聴 誰でも接続できる。AP自体を認証しないので偽AP(イービルツイン)は防げない
WPA2-Personal(PSK) 共有パスフレーズ あり(AES-CCMP) パスフレーズを知らない者の接続・盗聴 ハンドシェイクを収集されると弱いパスフレーズはオフラインで推測されうる。パスフレーズを知る者同士では保護が弱い。一人だけを遮断できない
WPA3-Personal(SAE) 共有パスワード あり、管理フレーム保護(PMF)必須 オフライン辞書攻撃に強い、前方秘匿性 弱いパスワードはオンラインで推測されうる。実装の欠陥がありうる。WPA2互換(移行)モードではダウングレードのリスク。一人だけを遮断できない
WPA2/WPA3-Enterprise IEEE 802.1X/EAP(例:EAP-TLS)、認証サーバはRADIUS あり(利用者・セッションごとの鍵) 利用者ごとの認証・失効・記録 端末がサーバ証明書を検証しないと偽APに資格情報が漏れうる。運用(証明書・アカウント管理)が必要
  • 802.1Xの三つの役割:サプリカント(端末)-オーセンティケータ(AP、無線LANコントローラ)-認証サーバ(RADIUS)。APは認証が終わるまでデータ通信を止め、EAPメッセージを中継する。認証全般(MFAなど)はAP20、暗号技術はAP19で復習する。
  • WEPとWPA(TKIP)は、すでに安全でない古い方式である。
  • 無線LANの暗号化が守るのは端末-AP間だけである。APの先の有線網やインターネット区間には、TLSのような上位層の保護が別に必要である(AP18)。
  • WPA3でも安全は保証されない。 パスワードの強度、ファームウェア更新、移行モードの管理、証明書の検証などの運用が揃っている必要がある。

12. クイックシートと落とし穴

  • インフラ = AP経由、アドホック = 端末同士を直接(IBSS)。ESS = 同じSSIDの複数AP。
  • SSID = 名前(最大32オクテット)、BSSID = BSSの識別子(通常はAP無線部のMAC)。どちらも認証ではない。
  • 無線 = 半二重の共有媒体 → 衝突を検出しにくい → CSMA/CA。新しいフレームが生じた時点で媒体が既にDIFS以上空いていれば即時アクセス可能。待機・再送後はDIFS → ランダムバックオフ(使用中は凍結)→ 送信 → SIFS後にACK → なければCWを広げて再送。
  • 隠れ端末 → RTS/CTS + NAV(CTSを聞いた端末が待つ)。さらし端末 → 機会損失で、RTS/CTSでは解決しない。
  • 2.4 GHzで20 MHzの重なりを避ける:チャネル番号を4以上離す。実務ではよく1/6/11。使えるチャネルは国ごと。
  • n = Wi-Fi 4(2.4/5)、ac = Wi-Fi 5(5のみ)、ax = Wi-Fi 6(2.4/5)、6E = ax + 6 GHz、ah = HaLow(1 GHz未満)。
  • MIMO = 空間ストリーム、MU-MIMO = 複数端末を同時に、OFDMA = 周波数分割、ビームフォーミング = 方向への集中。
  • 無線LANのローミングは端末が決め、APは11k/11vで勧め、11rで切替を短縮する。
  • 落とし穴:「SSIDステルス・MACフィルタ = 認証」「WPA3なら安全」「PHY 600 Mbps = 実測600 Mbps」「802.11acは2.4 GHzにも対応」「CSMA/CAは衝突しない」「RTS/CTSでさらし端末を解決」「Enhanced Openは接続者を認証する」。

13. オリジナル診断5問

以下の問題はMotitoryが作成したオリジナル(非公式)であり、IPAの過去問題を使用・翻案していない。

Q1 — 隠れ端末

APを挟んで端末AとCがある。AとCはAPの電波は受信できるが、互いの電波は受信できない。正しいものはどれか。

A. AとCは送信中に衝突を直接検出するので、すぐに送信を止める。

B. CはAのRTSを聞けないので、RTS/CTSを使っても何の効果もない。

C. AのRTSにAPがCTSで応えると、CはCTSのDuration値でNAVを設定し、その間送信を控える。

D. これはさらし端末問題であり、SSIDを隠せば解決する。

  • A:誤り。無線端末は送信中に衝突を検出しにくく、衝突は受信者であるAPで起きる。失敗はACKが来ないことで分かる。
  • B:誤り。CはRTSは聞けないが、APが送るCTSは聞ける。だからRTS/CTSは隠れ端末に効果がある。
  • C:正解。 計算例1のように、CはCTSのDuration(例:219 µs)の間待つ。
  • D:誤り。互いに聞こえずに衝突するのは隠れ端末問題である。また、SSIDの隠蔽は接続制御と関係がない。

Q2 — 規格と技術

正しいものはどれか。

A. IEEE 802.11ac(Wi-Fi 5)は、2.4 GHzと5 GHzの両方で動作する規格である。

B. ビームフォーミングは、チャネルをリソースユニット(RU)に分けて複数の端末へ同時に割り当てる技術である。

C. 802.11nの最大600 Mbpsは、実際のアプリケーションのスループットとして期待できる値である。

D. Wi-Fi 6Eは、IEEE 802.11ax機器が6 GHz帯も使うことを指し、使える6 GHzの範囲は国によって異なる。

  • A:誤り。802.11acは5 GHzの規格である。デュアルバンド機器も2.4 GHzでは802.11n以前で動作する。
  • B:誤り。それはOFDMAである。ビームフォーミングはアンテナごとの位相・振幅で信号を特定の方向へ集中させる。
  • C:誤り。600 Mbpsは最大条件でのPHY理論値である。オーバヘッドと共有のため、スループットはかなり低い(計算例3)。
  • D:正解。 6Eは6 GHzへの拡張であり、6 GHzの許可範囲と条件は国ごとに異なる。

Q3 — CSMA/CA

無線LANがCSMA/CDではなくCSMA/CAを使う理由と動作として正しいものはどれか。

A. 送信中の無線端末は自分の信号のために衝突を検出しにくく、衝突は受信側で起こりうる。待機したフレームはDIFSとランダムバックオフを経るが、新しいフレームが生じた時点で媒体が既にDIFS以上空いていれば即時アクセスでき、成功はACKで確認する。

B. バックオフカウンタは、媒体が使用中でも減り続けて待ち時間を短縮する。

C. ACKが来なければ、コンテンションウィンドウ(CW)を半分にしてより早く再送する。

D. CSMA/CAを使えば、衝突は原理的に起こらない。

  • A:正解。 媒体が既に空いていた場合の即時アクセスと、待機後のランダムバックオフという二つのDCF経路、ACKによる確認を正確に述べている。
  • B:誤り。媒体が使用中の間カウンタは凍結し、再び空いてから続きを減らす。
  • C:誤り。失敗するとCWをおおむね2倍に広げて(上限まで)、再び衝突する確率を下げる。
  • D:誤り。2台が同じバックオフ値を選んだり、隠れ端末があったりすれば衝突は起こる。CSMA/CAは減らすだけである。

Q4 — エアタイムの計算

計算例3と同じ前提(1フレームの固定時間180 µs、ペイロード1,500バイト、衝突・誤りなし、端末1台)で、PHY速度が150 Mbpsのとき、実効スループットに最も近いものはどれか。

A. 150 Mbps

B. 約46.2 Mbps

C. 約66.7 Mbps

D. 75 Mbps

  • A:誤り。PHY速度をそのままスループットとみなしている。
  • B:正解。 12,000 ÷ 150 Mbps = 80 µs、180 + 80 = 260 µs、12,000 ÷ 260 µs ≒ 46.2 Mbps。
  • C:誤り。12,000 ÷ 180 µsで、ペイロードの送信時間80 µsが抜けている。
  • D:誤り。「PHY速度の半分」という目安であり、与えられた前提から計算した値ではない。

Q5 — セキュリティ方式の選択

従業員200人の会社が社内無線LANを設計する。退職者一人の接続だけを直ちに遮断でき、誰が接続したかを利用者ごとに記録する必要がある。最も適切なものはどれか。

A. SSIDステルスとMACアドレスフィルタリング

B. WPA3-Personalと全従業員共通の強いパスワード

C. WPA3-Enterprise(またはWPA2-Enterprise):IEEE 802.1X/EAP(例:EAP-TLS)とRADIUSサーバ、端末によるサーバ証明書の検証

D. Enhanced Open(OWE)

  • A:誤り。SSIDはフレームから観測でき、MACアドレスは偽装できる。どちらも認証ではない。
  • B:誤り。SAEはオフライン辞書攻撃に強いが、共通の秘密なので、一人だけ遮断するには全員のパスワードを変える必要があり、利用者ごとの記録もない。
  • C:正解。 利用者・証明書単位で認証し、失効や記録ができる。ただしサーバ証明書の検証やアカウント管理などの運用が揃っている必要があり、これだけで安全が保証されるわけではない。
  • D:誤り。無線区間は暗号化するが、接続者を認証しないので誰でも接続できる。

正解:C、D、A、B、C

14. セルフチェックと復習スケジュール

  • インフラストラクチャモードとアドホックモード、SSIDとBSSIDの違いを表を見ずに言える。
  • 無線LANがCSMA/CDを使わない理由を二つ言える。
  • DCFの即時アクセスの例外と、待機・再送経路(DIFS・バックオフ・送信・ACK・再送)を区別できる。
  • 計算例1の219 µsと262 µsを再計算できる。
  • チャネル1と4が5 MHz重なり、1と6が重ならない理由を計算で示せる。
  • 計算例3の40 / 50 / 22.2 Mbpsを再計算し、PHY速度とスループットの違いを説明できる。
  • MIMO、MU-MIMO、OFDMA、ビームフォーミングを「何を分けるか」で区別できる。
  • セキュリティ表の五つの方式を「認証・暗号化・防げないもの」で説明できる。

推奨復習サイクル(公開スケジュールとは別):当日に計算例1〜3を見ずに再計算 → 1日後にQ1–Q5 → 3日後にクイックシートだけを見て用語・世代表の空欄を埋める → 7日後にPHY速度とペイロードサイズを変えてエアタイムを新たに計算 → 14日後に間違えた問題とセキュリティ表だけを確認する。

15. 公式出典

  • IPA 応用情報技術者試験 シラバスVer.7.2 — 大分類3/中分類10 ネットワークの 1. ネットワーク方式/(4)無線LAN(アクセスポイント、インフラストラクチャ・アドホック、SSID、隠れ端末・さらし端末)、2. データ通信と制御/(5)メディアアクセス制御(CSMA/CA)、3. 通信プロトコル/(1)⑥ LAN とWANのインタフェース(IEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax、Wi-Fi 4/5/6/6E、メッシュWi-Fi)、5. ネットワーク応用/(6)③ 移動体通信技術(ハンドオーバー・ローミング、MIMO、ビームフォーミング、IEEE 802.11ah)と、関連項目として中分類11 セキュリティ/5. セキュリティ実装技術(WPA2/WPA3、Enhanced Open、IEEE 802.1X/EAP)に対応させた。2026-10-22確認。
  • IPA シラバス・改訂情報 ハブ — シラバスの改訂の有無はここで確認する。2026-10-22確認。
  • IEEE 802.11-2024 — 現行のIEEE 802.11統合規格。2026-10-22確認。
  • IEEE 802.11-2020(置き換え済み) — 802.11-2024に置き換えられた前版で、改訂の系譜を確認できる。2026-10-22確認。
  • Wi-Fi Alliance: Security — WPA3、Enhanced OpenなどのWi-Fiセキュリティ認証プログラム。2026-10-22確認。

本記事はAP33–38仕上げ計画の2回目である。次に予定しているテーマはAP35 分散データベース・データウェアハウスで、シリーズはAP38で完結する。

ブログへ