AP29 — 会計・損益分岐点・投資評価
応用情報技術者試験 科目Aの財務諸表の読み方、流動比率・自己資本比率、固定費・変動費と損益分岐点、安全余裕率、NPV・IRR・回収期間・WACCを、計算例とオリジナル問題4問で学びます。
AP科目A・第29回 · 2026年度・シラバスVer.7.2に基づく独立した学習資料です。IPAとの提携はなく、合格を保証しません。 シリーズ一覧を見る
学習範囲と出典
- 学習指標:2026年 IPA 応用情報技術者試験(AP)シラバス Ver.7.2、大分類9(企業と法務)、中分類22(企業活動)、3 会計・財務を適用する。
- 正確なPDFページ/印刷フッターページの対応:130/126, 131/127, 132/128。
- 公式資料:シラバスPDF・概要・改訂情報
- 確認日:2026-10-21。これは独立した学習資料であり、IPAとの提携又は承認関係を主張しない。
一つの合成事例
架空企業 Lumen Devices が小型監視端末への投資を検討している。個人情報及び実在企業のデータは使用しない。特記がない金額単位は百万円で、全数値はこの一つの事例に属する。
1. 財務諸表を目的別に読む
- **貸借対照表(B/S)**は一時点の状態を示し、資産=負債+純資産である。流動資産には現金・売掛金、固定資産には設備・ソフトウェアなどがある。
- **損益計算書(P/L)**は一期間の業績を示す。売上高-売上原価=売上総利益、売上総利益-販売費及び一般管理費=営業利益である。さらに営業外損益から経常利益へ、特別損益・税金を経て当期純利益へつながる。
- **キャッシュフロー計算書(C/F)**は営業・投資・財務活動による現金の動きを示す。設備購入は通常、投資活動の支出、借入れは財務活動の収入である。発生主義では掛売上や減価償却を現金と異なる時期に認識するため、利益と現金は一致しない。
- 株主資本等変動計算書は利益、配当、増資などによる純資産の変動を説明する。
流動資産180、流動負債120、総資産500、純資産200とする。流動比率は180÷120×100=150%、自己資本比率は200÷500×100=**40%**である。前者は短期的安全性、後者は資本構成の安定性を見る一視点だが、これだけで収益性や資産の換金性を断定できない。
2. 固定費と変動費を分ける
端末の販売単価は50,000円、単位当たり変動費は30,000円、月間固定費は8,000,000円である。
- 単位当たり限界利益=販売単価-単位当たり変動費=20,000円
- 限界利益率=20,000÷50,000=40%
- 限界利益総額=売上高-変動費総額
- 利益=限界利益総額-固定費
想定する操業範囲内で、変動費は活動量に応じて変化し、固定費は総額では一定である。ただし単位当たり固定費は数量増加に伴い低下する。限界利益は営業利益ではなく、まず固定費を回収する原資である。
3. 損益分岐点、目標利益売上高、安全余裕率を求める
損益分岐点では利益がゼロになる。
- 損益分岐点販売量=固定費÷単位当たり限界利益=8,000,000÷20,000=400台
- 損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率=8,000,000÷0.40=20,000,000円
- 目標利益4,000,000円の販売量=(8,000,000+4,000,000)÷20,000=600台
- 同じ目標利益の売上高=(8,000,000+4,000,000)÷0.40=30,000,000円
実際売上高が25,000,000円なら、安全余裕額は25,000,000-20,000,000=5,000,000円、安全余裕率は5,000,000÷25,000,000×100=**20%**である。売上が損益分岐点まで何%低下できるかを示す。
単価・数量の仮定が同じなら、固定費の増加は損益分岐点を上げる。単位当たり変動費の増加も限界利益を下げ、損益分岐点を上げる。単純モデルは、関連する範囲で売上・費用が線形、販売構成が一定、在庫変動の影響が重要でないことを仮定する。
4. 割引キャッシュフローで投資を評価する
t=0で10百万円を投資し、今後2年間の各年末に税引後キャッシュインフロー6百万円を見込む。年割引率は10%、金額単位は百万円、最終結果は小数第3位まで表示する(小数第4位を四捨五入)。記載済み税引後フロー以外の税効果、残存価値、運転資本の変動はないと仮定する。
- 1年目現在価値=6÷1.10=5.455
- 2年目現在価値=6÷1.10²=4.959
- NPV=-10+6÷1.10+6÷1.10²=+0.413百万円(中間値を丸めずに計算し、最後に丸める)
単独案件では、NPVが正なら割引後収入が初期投資を上回るため、NPV法では採用する。割引率はリスクと資金調達条件を反映すべきで、WACCは負債コストと株主資本コストの加重平均として全社的投資評価の基準になり得る。
IRRはNPVをゼロにする割引率である。IRRが要求収益率を上回れば採用するのが一般則だが、規模・時期が異なる排他的案件又は非定型キャッシュフローではIRRが誤解を招くことがあり、価値増加額を示すNPVを優先する。
単純回収期間は1年+4÷6年=1.667年である。DPP(割引回収期間)は割引後キャッシュフローを使い、1年後の未回収額4.545を2年目現在価値4.959で割るので、約1.917年である。回収期間法は回収速度を重視するが、基準後のキャッシュフローを無視し、単純回収期間は貨幣の時間価値も無視する。
| Term | Canonical distinction |
|---|---|
| B/S / P/L / C/F | 一時点の財政状態 / 一期間の業績 / 現金の動き |
| 固定費 / 変動費 | 関連範囲内で総額一定 / 活動量に応じて変動 |
| 限界利益 | 売上高-変動費。固定費と利益の原資 |
| 損益分岐点 / 目標利益売上高 | 利益ゼロの水準 / 固定費と目標利益を賄う水準 |
| NPV / IRR / DPP | 要求収益率での価値増加 / NPVがゼロとなる率 / 割引後の回収期間 |
| WACC | 負債・株主資本コストの加重平均で、割引率の基準 |
練習問題 — すべてオリジナル
問題 1
取引とキャッシュフロー区分の組合せとして正しいものはどれか。
- 現金による生産設備購入―営業活動による支出
- 銀行からの新規借入れ―財務活動による収入
- 売掛金の回収―投資活動による収入
- 従業員給与の支払―財務活動による支出
正解:2
- 1:誤り。設備購入は通常、投資活動による支出である。
- 2:正しい。借入れは資金調達であり、財務活動による収入である。
- 3:誤り。顧客からの回収は営業活動に属する。
- 4:誤り。給与支払は通常、営業活動による支出である。
問題 2
販売単価50,000円、単位当たり変動費30,000円、固定費8,000,000円の損益分岐点販売量はどれか。
- 160台
- 267台
- 400台
- 600台
正解:3
- 1:誤り。限界利益でなく販売単価で固定費を割っている。
- 2:誤り。固定費を変動費で割る式ではない。
- 3:正しい。8,000,000÷(50,000-30,000)=400台である。
- 4:誤り。これは目標利益4,000,000円を含む場合の販売量である。
問題 3
実際売上高25,000,000円、損益分岐点売上高20,000,000円のとき、安全余裕率はどれか。
- 5%
- 10%
- 20%
- 25%
正解:3
- 1:誤り。差額5百万円は実際売上高の5%ではない。
- 2:誤り。与えられた数値からは得られない。
- 3:正しい。(25-20)÷25×100=20%である。
- 4:誤り。安全余裕額を損益分岐点売上高で割っている。
問題 4
現在10百万円を投資し、2年間の各年末に6百万円を回収する。割引率10%で正しい評価はどれか(丸め)。
- NPVは約+0.413百万円なので、NPV法では採用する。
- 割引を無視すべきなので、NPVは-2百万円である。
- 割引後のNPVは正確に+2百万円である。
- 会計上の減価償却がなければNPVを計算できない。
正解:1
- 1:正しい。-10+6/1.10+6/1.10²≒+0.413である。
- 2:誤り。割引前差額は+2百万円であり、NPVでは割引が必要である。
- 3:誤り。+2百万円は割引前の差額である。
- 4:誤り。提示されたキャッシュフローと割引率で計算できる。
出題来歴と次回
4問はすべてオリジナルである。したがって過去問題の年度/期/AP表記/元の時間帯/問題番号はN/A、翻訳・翻案はN/A、公式解答との比較もN/Aである。IPA過去問題は使用していない。例は試験学習用であり、個人的な投資助言ではなく、合格を保証しない。
次回は AP30 — AI・統計・評価・データ である。