AP科目A 37 — 技術分野の総合診断:性能・DB・ネットワーク・セキュリティ・稼働率・再試行
応用情報技術者試験 科目Aの技術分野総合診断。キャッシュとページフォールトの単位換算、二分探索とB木のI/O、CIDRとTLS・認証・認可、共有電源を含む稼働率、再試行と冪等性をオリジナル5問で点検します。
AP科目A・第37回 · 2026年度・シラバスVer.7.2に基づく独立した学習資料です。IPAとの提携はなく、合格を保証しません。 シリーズ一覧を見る
2026年IPA応用情報技術者試験(AP)科目A、シラバスVer.7.2を基準とし、2026-10-22確認。Motitoryの独立した学習資料であり、IPAとの提携やIPAによる承認・確認はない。以下の5問はすべてMotitoryが作成した非公式のオリジナル問題であり、IPAの過去問題を使用・翻案していない。問題中の数値は演習用に定めた架空の入力値で、公式の基準値ではない。
学習インデックス
- この診断の使い方と限界
- 範囲マップ
- 計算例 単位と依存の境界
- Q1 キャッシュとページフォールト
- Q2 探索の比較回数とインデックスIO
- Q3 CIDRとTLS 認証 認可
- Q4 エンドツーエンドの稼働率と共有電源
- Q5 再試行 トランザクション 冪等性
- 問題横断の誤りパターン
- セルフチェックと復習計画
- 公式出典と改訂履歴
- AP33–38の中での位置
1. この診断の使い方と限界
本記事は新しい概念を教えない。既に公開した回の知識を1問の中で2〜3分野ずつ組み合わせ、分野の境界をまたぐときに起きる誤り(単位換算、コスト単位の混同、信頼境界の混同、共有依存、再試行と原子性)をあぶり出すことが目的である。AP1–36の要約もしない。概念があやふやなら、各選択肢の解説にあるリンクへ戻る。
5問で合格の可能性は予測できない。5問という標本では、合格するかどうか、受験準備が整ったかどうか、Ver.7.2全範囲を習得したかどうかを判定できない。5問すべて正解でも「準備完了」ではなく、間違えても「不合格水準」ではない。結果は、どの回を復習するかを選ぶためだけに使う。
推奨する使い方:
- 各問を、解説を見ずに紙の上で計算まで終える(目標時間は設けない)。
- 選んだ理由を1行で書く。正解でも理由が誤っていれば誤答として記録する。
- 解説では、選ばなかった選択肢がなぜ誤りかも確認する。
- 9節の誤りパターン表に自分の誤りを印し、10節の計画に従って該当回を復習する。
2. 範囲マップ
以下の対応は各問が関わるシラバス項目であり、5問でこれらの項目を網羅するという意味ではない。
| 問題 | IPAシラバスVer.7.2の階層 | 関連する回 |
|---|---|---|
| Q1 | 大分類2:コンピュータシステム/中分類3:コンピュータ構成要素/2. メモリ/(5)メモリの容量と性能、大分類2:コンピュータシステム/中分類5:ソフトウェア/1. オペレーティングシステム/(7)記憶管理 | AP7、AP9 |
| Q2 | 大分類1:基礎理論/中分類2:アルゴリズムとプログラミング/2. アルゴリズム/(2)代表的なアルゴリズム/①整列・併合・探索のアルゴリズム、大分類3:技術要素/中分類9:データベース/4. トランザクション処理/(4)データベースの性能向上 | AP5、AP6、AP13、AP14、AP32 |
| Q3 | 大分類3:技術要素/中分類10:ネットワーク/3. 通信プロトコル/(1)プロトコルとインタフェース/③ ネットワーク層のプロトコル、大分類3:技術要素/中分類11:セキュリティ/1. 情報セキュリティ/(8)情報セキュリティに関する技術/③ 利用者認証・⑤ 公開鍵基盤 | AP16、AP17、AP18、AP19、AP20、AP21 |
| Q4 | 大分類2:コンピュータシステム/中分類4:システム構成要素/2. システムの評価指標/(2)システムの信頼性特性と評価/②信頼性指標と信頼性計算、大分類6:サービスマネジメント/中分類15:サービスマネジメント/5. ファシリティマネジメント/(1)ファシリティマネジメント | AP8、AP10、AP25、AP35、AP36 |
| Q5 | 大分類3:技術要素/中分類9:データベース/4. トランザクション処理/(1)同時実行制御(排他制御)・(3)トランザクション管理、大分類4:開発技術/中分類12:システム開発技術 | AP10、AP15、AP22、AP23、AP35 |
よく出る試験用語:実効アクセス時間、ページフォールト、二分探索、B木インデックス、サブネットマスク、サーバ証明書、認証と認可、稼働率、単一障害点、冪等性、一意性制約、トランザクション。
3. 計算例 単位と依存の境界
問題に入る前に、複合問題で使う二つの習慣を、問題とは別の数値で一度示す。
習慣1 — まず単位を一つにそろえる。架空のAPIリクエスト1件の平均処理時間を求めるとする。仮定(この例のみ):アプリケーションのCPU処理0.4 ms、DB往復3回×250 μs、リクエストの5%だけが外部サービスを0.02 s呼び出す。各項を独立した平均として足し合わせると単純化する。
- 共通の単位をμsとする。1 ms = 1,000 μs、1 s = 1,000,000 μs。
- CPU:0.4 ms = 400 μs
- DB:3 × 250 μs = 750 μs
- 外部呼出し:0.02 s = 20,000 μs、期待値は0.05 × 20,000 = 1,000 μs
- 合計:400 + 750 + 1,000 = 2,150 μs = 2.15 ms
単位をそろえずに0.4 + 750 + 0.02のように数字だけを足すと、意味のない値になる。また「5%しか起きないから無視してよい」という直感は、大きさを掛けてみるまで信用できない。この例では5%の項が合計の半分近くを占める。
習慣2 — 依存の境界を描く。架空の構成:アプリケーションサーバ2台が1台のロードバランサの背後にあり、どちらも同じDB 1台を使う。リクエストが成功するためにすべて稼働していなければならないものを列挙する。
[ロードバランサ] → ( [アプリサーバ1] または [アプリサーバ2] ) → [DB]
必須 どちらか一方で足りる 必須
- 直列(必須):ロードバランサ、DB
- 並列(一方で足りる):アプリケーションサーバ2台
- 隠れた共有依存を探す:2台のアプリケーションサーバが同じラック電源、同じスイッチ、同じ設定配布を使っていれば、「並列」はその部分で再び一つにまとまる。
この図を描けば、「アプリケーションサーバを増やしたから全体がその分だけ丈夫になった」という結論が誤りうることが、数値なしでも分かる。ここでは稼働率を計算しない。計算はQ4で自分で行う。
4. Q1 キャッシュとページフォールト
シナリオ(架空)。あるプログラムがメモリ参照を1,000回行う。次の単純化した加算モデルを仮定する。
- 参照の90%はキャッシュにヒットし、2 nsかかる。
- 残り10%はキャッシュミスで、80 nsかかる(主記憶へのアクセスを含む)。
- これとは別に、全参照の0.1%にはページフォールト処理8 msが追加で加わる。
このモデルにおける参照1回あたりの平均アクセス時間と、その解釈として正しいものはどれか。
A. 9.8 ns。ページフォールトは0.1%とまれなので、平均にはほとんど影響しない。
B. 8,009.8 ns。この仮定では、まれなページフォールトの項が平均の大部分を占める。ただし、この結論は与えられた加算モデルの中でのみ成り立つ。
C. 17.8 ns。ページフォールトを加えても、平均はキャッシュミスの時間より小さい。
D. 8,000,009.8 ns。ページフォールトの8 msがそのまま平均に加わるからである。
考え方
- 単位をnsにそろえる。8 ms = 8 × 1,000,000 ns = 8,000,000 ns。
- キャッシュヒットの項:0.9 × 2 = 1.8 ns
- キャッシュミスの項:0.1 × 80 = 8 ns
- ページフォールトの項:0.001 × 8,000,000 = 8,000 ns
- 合計:1.8 + 8 + 8,000 = 8,009.8 ns
- 回数による検算:1,000回のうちヒット900回 × 2 = 1,800 ns、ミス100回 × 80 = 8,000 ns、ページフォールト1回 × 8,000,000 = 8,000,000 ns。合計8,009,800 ns ÷ 1,000 = 8,009.8 ns。
- 解釈:ページフォールトの項8,000 nsは平均の約99.88%である。この割合は問題の仮定(独立に足し合わせる単純なモデル、固定の発生率)から出たもので、実システムのページフォールトのコストや頻度を一般化したものではない。
正解:B
- A:誤り。ページフォールトの項を除いて1.8 + 8 = 9.8 nsだけを計算した。発生率が小さくても大きさが百万倍の桁なら平均を支配しうる。復習:AP7(実効アクセス時間)、AP9(仮想記憶とページフォールト)。
- B:正解。単位をそろえたうえで3項を加重平均として足し、解釈を与えられた仮定の内側に限定している。
- C:誤り。8 msを8,000 ns(= 8 μs)と誤って換算し、0.001 × 8,000 = 8 nsを足した。msとμsを混同した単位の誤りである。復習:AP7。
- D:誤り。ページフォールトの8,000,000 nsに発生率0.001を掛けていない。すべての参照でページフォールトが起きるとみなしたことになる。復習:AP9、AP7。
5. Q2 探索の比較回数とインデックスIO
シナリオ(架空)。二つの検索を比べる。
- (ア)メモリ上の整列済み配列にキーが1,048,576個(= 2^20)ある。二分探索の最悪比較回数を、この問題では「2^20個の候補を1個に絞るのに必要な半減の回数」log₂(2^20) = 20回と数える(最後の一致確認をもう1回数える流儀もあるが、ここでは用いない)。
- (イ)ディスク上の表のB木インデックスは、ルートとリーフを含めてちょうど4段である(4つのページ階層)。関連するページは一つもキャッシュになく、完全一致のキー1個を探すとき各段でページを1つずつ読むと仮定する。
正しい説明はどれか。
A. (ア)は最悪1,048,576回の比較、(イ)は4回のページ読込みである。
B. (ア)は最悪20回の比較であり、B木も二分探索と同じ原理なので、(イ)も20回のページ読込みが必要である。
C. (ア)は最悪20回の比較、(イ)は4回のページ読込みである。比較回数とページI/O回数はコストの単位が異なるので、20と4という数字だけではどちらが速いかを決められない。
D. (イ)は4回で(ア)の20回より少ないので、どのような環境でもB木インデックスによる検索はメモリ上の二分探索より速い。
考え方
- (ア):比較1回ごとに候補が半分になる。2^20 → 2^19 → … → 2^0 = 1まで20回半減する。問題の取決めにより、最悪20回の比較。
- (イ):4段で、キャッシュなし・各段1ページという仮定が与えられているので、ルート1 + 中間2 + リーフ1 = 4回のページ読込み。各ページの中でキーを探す比較も別に起きるが、この問題の(イ)のコスト単位はページ読込みである。
- 単位の確認:(ア)の単位は「メモリ上のキー比較」、(イ)の単位は「ページI/O」。1回あたりのコストは大きく異なりうるので、20と4を直接比べない。
- 仮定の確認:上位ページがキャッシュにあれば実際のディスク読込みは4回より少なくなりうるし、表の行を別に読む必要があれば多くなりうる。「4段 = 常にI/O 4回」ではなく、この問題の仮定では4回である。
正解:C
- A:誤り。1,048,576回は先頭から一つずつ見る線形探索の最悪である。整列済み配列の二分探索はlog₂ nの規模である。復習:AP5(探索)、AP6(計算量)。
- B:誤り。B木は1ページに多くのキーを詰めて段数を減らす構造である。段数(4)がページ読込み回数であり、二分探索の比較回数をそのままページ数に移すのはコスト単位の混同である。復習:AP32(インデックスとページアクセス数)、AP13(キー)。
- C:正解。二つの値をそれぞれの仮定と単位で求め、単位が異なることまで述べている。
- D:誤り。異なる単位の数字を大小だけで比べ、普遍的な結論を出している。キャッシュの状態、記憶媒体、行へのアクセス方法によって結果は変わる。復習:AP32、AP14(SQLによる検索)、AP6。
6. Q3 CIDRとTLS 認証 認可
シナリオ(架空)。社内Webアプリケーションサーバのアドレスは192.0.2.130/26である(192.0.2.0/24は文書・例示用に予約されたアドレスブロックであり、インターネット上で経路が設定されるアドレスではない)。利用者はブラウザからHTTPSでこのサーバの業務画面に接続する。通常のサブネット演習の取決め(/31や/32のような特殊な場合ではない)に従う。
ネットワークの判断とセキュリティ設計を組み合わせた説明として正しいものはどれか。
A. /26のブロックサイズは64で、ホストアドレス.130がネットワークの先頭なので、ネットワークアドレスは.130、ブロードキャストは.193である。TLSではサーバ証明書とホスト名を検証し、利用者の認証と認可は別に設ける。
B. ネットワークアドレス.128、ブロードキャスト.191、利用可能範囲.129〜.190であり、.130はその範囲内にある。TLSで通信が暗号化されるので、利用者の認証は別途必要ない。
C. ネットワークアドレス.128、ブロードキャスト.191、利用可能範囲.129〜.190であり、.130はその範囲内にある。サーバ証明書を検証し、MFAで利用者を認証すれば、MFAを通過した利用者にはすべての機能が自動的に許可される。
D. ネットワークアドレス.128、ブロードキャスト.191、利用可能範囲.129〜.190であり、.130はその範囲内にある。TLSではサーバ証明書とホスト名を検証してサーバを確認し、利用者は別の認証(必要に応じてMFA)で確認したうえで、機能ごとの権限は認可として別に判断する。
考え方
- /26 → ホスト部32 − 26 = 6ビット → ブロックサイズ2^6 = 64。
- 第4オクテットのブロック境界:0、64、128、192。128 ≤ 130 < 192なので、ブロックは128〜191。
- ネットワークアドレス = .128、ブロードキャスト = .191、利用可能ホスト = .129〜.190(64 − 2 = 62個)。.130は利用可能範囲内にある。
- 信頼境界を分ける。
- TLSのサーバ証明書:検証(信頼できる認証局までの連鎖、有効期間、ホスト名の一致)に成功すれば、接続相手がそのサーバであることを確認し、通信を保護する。利用者が誰かは確認しない。
- 利用者認証(MFAを含む):この利用者が誰かを確認する。
- 認可:認証された利用者が何をしてよいかを判断する。MFAは認証の手段であり、権限の付与ではない。
正解:D
- A:誤り。ホストアドレスをネットワークアドレスと取り違えている。ブロック境界は64の倍数(.128)から始まる。セキュリティの部分は正しいが、ネットワークの判断が誤っている。復習:AP17(サブネット・CIDR)、AP16(ネットワーク層)。
- B:誤り。TLSが提供するのはサーバの確認と通信の保護であり、アプリケーションの利用者は認証しない。暗号化された経路を通じて誰でもログイン画面に到達できる。復習:AP18(TLS)、AP19(PKI・サーバ証明書)、AP20(利用者認証)。
- C:誤り。認証(誰か)と認可(何をしてよいか)を混同している。MFAを通過しても、最小権限に従って機能ごとの権限を別に与える必要がある。復習:AP20(認証・認可)、AP21(多層防御)。
- D:正解。アドレス計算が正しく、サーバの確認・利用者認証・認可という三つの境界を混ぜていない。無線区間の認証(IEEE 802.1Xなど)でも同じ考え方で境界を分けてみたい場合はAP34を参照する(上のリンクの代わりにはならない)。
7. Q4 エンドツーエンドの稼働率と共有電源
シナリオ(架空)。サービスが動作するには、コンピュート系と、それに電力を供給する電源経路の両方が必要である。この演習では次を仮定する。
- コンピュートノード1台の稼働率:0.999
- 共有電源経路の稼働率:0.998
- 各要素の故障は互いに独立である(演習用の仮定)。
コンピュートノードを同じ仕様の2台で並列化(1台が稼働していればよい)するが、2台は同じ電源経路を共有する。正しい説明はどれか。
A. コンピュートを2台で並列化すると1 − (1 − 0.999)^2 = 0.999999なので、エンドツーエンドの稼働率は約99.9999%になる。
B. 1台構成のエンドツーエンドの稼働率は0.999 × 0.998 = 0.997002(99.7002%)、2台並列構成では0.999999 × 0.998 = 0.997999002(約99.7999002%)である。共有電源が直列に残っているので、コンピュートを冗長化してもエンドツーエンドの稼働率は0.998を超えられない。
C. 2台とも必要なので0.999 × 0.999 × 0.998 = 0.996004998となり、並列化するとかえって稼働率が下がる。
D. ノードを2台置けば電源経路も一緒に冗長化されたとみなせるので、(1 − 0.001^2) × (1 − 0.002^2) = 0.999995000004、約99.9995%になる。
考え方
- 依存の境界を描く:
( [ノード1] または [ノード2] ) → [共有電源]。コンピュート部分は並列、電源は直列。 - 1台構成:直列なので掛ける。0.999 × 0.998 = 0.997002 = 99.7002%。
- コンピュートの並列部:両方が停止する確率(1 − 0.999)^2 = 0.001^2 = 0.000001 → 並列部の稼働率1 − 0.000001 = 0.999999。
- 2台構成のエンドツーエンド:0.999999 × 0.998 = 0.998 − 0.998 × 0.000001 = 0.998 − 0.000000998 = 0.997999002 ≈ 99.7999002%。
- 比較:非稼働率は0.002998から0.002000998に減るが、そのうち0.002は共有電源の分としてそのまま残る。エンドツーエンドの稼働率の上限は共有電源の0.998である。
- 仮定の確認:独立の仮定は演習用である。実際には、同じ電源・同じラック・同じ配備を共有するノードは一緒に停止しうる(共通原因故障)ので、並列部の0.999999も過大評価でありうる。
正解:B
- A:誤り。並列部の稼働率だけを計算し、直列に残る共有電源の0.998を掛けていない。復習:AP8(直列・並列の稼働率)、AP36(設備の冗長化と共通原因)、AP25(SLAで測る対象)。
- B:正解。直列と並列を正しく分けて計算し、共有依存が上限を決めることと、独立の仮定の限界を述べている。
- C:誤り。「1台が稼働していればよい」並列を、「2台とも必要」な直列として計算している。復習:AP8。
- D:誤り。ノードを増やしても、それらが共有する電源経路は冗長化されない。電源経路は一つしかないので、並列の式は使えない。復習:AP36(電源経路と単一障害点)、AP10(分散構成)、AP35(複製と障害範囲)。
8. Q5 再試行 トランザクション 冪等性
シナリオ(架空)。注文作成APIがある。クライアントは一定時間応答を待ち、タイムアウトすると同じリクエストを再送する。サーバが注文をDBにコミットして応答を返したが、その応答がネットワーク上で失われ、クライアントがタイムアウトすることがある。注文が作成されたら、配送システムに「注文作成」イベントも届けなければならない。
注文の重複を防ぐ設計として最も適切なものはどれか。
A. クライアントが指数バックオフで再試行の間隔を広げれば、サーバ側を変えなくても注文は重複しない。
B. サーバは注文を挿入する前にSELECTで同じリクエストがあるかを確認し、なければINSERTする。一意性制約は性能のために設けない。
C. クライアントはリクエストごとに固定の冪等キーを送り、DBはそのキーに一意性制約を設ける。注文行とアウトボックスのイベント行を一つのトランザクションでまとめてコミットし、キーが重複したら既存の注文の結果を返す。イベントを受け取る側も、同じイベントの重複配信を冪等に処理する。
D. 注文をコミットした後、別の段階でメッセージブローカにイベントを発行する。ブローカがあれば、全体の流れが厳密に1回(exactly-once)処理されることが保証される。
考え方(選択肢Cの動作の追跡)
- 最初のリクエスト(冪等キーK1):トランザクション開始 → 注文行をINSERT(K1)→ アウトボックス行をINSERT(イベントID E1)→ コミット成功。
- 応答の消失:クライアントは結果を知らないままタイムアウトする。DBには注文1件とイベント1件がある。
- 再試行(同じK1):注文のINSERTはK1の一意性制約違反で失敗するか、競合として処理される → 2件目の注文はできない。
- サーバはK1で既存の注文を検索し、1回目と同じ結果を返す。(同じキーで異なる内容が来たら拒否する規則も併せて設ける。)
- アウトボックスのリレーがE1を発行する。発行の確認が失われれば、E1を再送することがある(少なくとも1回の配信)。
- 消費側は処理済みのイベントIDを記録し、E1が再び届いても効果を1回だけ適用する。これは全体として「厳密に1回の配信」を保証するものではなく、重複が届いても結果が1回適用したのと同じになるように処理するものである。
必要なテストマトリクス
| シナリオ | 注入する状況 | 期待結果 |
|---|---|---|
| 応答消失後の再試行 | コミット後に応答を捨て、同じキーで再送 | 注文1件、アウトボックス1件、二つの応答が同じ注文結果 |
| 同一キーの同時リクエスト | 同じK1のリクエスト2件を同時に送る | 注文1件。一方は既存の結果を受け取るか、待機後に受け取る。サーバエラーが外に漏れない |
| コミット前のロールバック | 注文INSERTの後、アウトボックスINSERTの前に障害を注入 | 注文もイベントも存在しない。再試行すれば1件作成 |
| アウトボックスの再配信 | リレーがE1を2回発行 | 消費側の効果は1回 |
正解:C
- A:誤り。再試行は重複の原因であって解決策ではない。バックオフは負荷を減らすだけで、既にコミットされた注文への再送を防げない。復習:AP10(分散処理)、AP22(非機能要件としての冪等性)。
- B:誤り。確認してから挿入する方式(check-then-insert)では、同じキーのリクエスト2件が同時に
SELECTを通過すると、両方がINSERTしうる。同時実行下でも1件にするには、一意性をDBの制約で保証しなければならない。復習:AP15(同時実行制御)、AP13(キーと一意性)。 - C:正解。一意性制約、原子的なコミット、既存結果の返却、消費側の冪等な処理をすべて備え、上のテストマトリクスで検証できる。復習:AP23(障害注入を含むテスト設計)。
- D:誤り。注文のコミットとイベントの発行が別々に行われると、その間に障害が起きればイベントのない注文が残る。ブローカがあるだけでエンドツーエンドの厳密に1回が保証されるわけではない。復習:AP15(トランザクションの原子性)、AP35(分散トランザクションと2相コミット)。
正解一覧:Q1 B / Q2 C / Q3 D / Q4 B / Q5 C
9. 問題横断の誤りパターン
| 誤りパターン | 現れ方 | 該当する問題 | 点検の習慣 | 復習 |
|---|---|---|---|---|
| 単位換算 | ms・μs・nsを混ぜて足す、発生率を掛けない | Q1(C・D)、計算例 | 計算の前に共通の単位を書き、各項を「確率 × 大きさ」で書く | AP7、AP9 |
| コスト単位の混同 | 比較回数とページI/Oを同じ数字として比べる | Q2(B・D) | すべての数字に単位(「回の比較」「ページ読込み」)を添える | AP5、AP32 |
| 信頼境界の混同 | サーバ証明書 = 利用者認証、MFA = 認可 | Q3(B・C) | 境界ごとに「誰を確認するか/何を許可するか」を書く | AP19、AP20 |
| 境界値の取違え | ホストアドレスをネットワークアドレスとみなす | Q3(A) | まずブロックサイズの倍数で境界を書く | AP17 |
| 共有依存の見落とし | 並列部だけを計算、共有経路を並列として計算 | Q4(A・D)、計算例 | 先に依存の境界を描き、直列と並列を印す | AP8、AP36 |
| 直列・並列の取違え | 「1台が稼働していればよい」並列部を「2台とも必要」な直列として計算 | Q4(C) | 掛ける前に、各ブロックに「1つでよい/すべて必要」を書く | AP8 |
| 再試行と原子性 | 再試行だけで解決、確認後の挿入、別々のコミット | Q5(A・B・D) | 応答消失・同時リクエスト・途中障害を一つずつ追跡する | AP15、AP23 |
10. セルフチェックと復習計画
このチェックは点数や準備状況の判定ではない。正解数から合格の可能性を推定しない。
- Q1の8,009.8 nsを、加重平均と1,000回分の合計の二つの方法で計算し直せる。
- 8 ms = 8,000,000 nsと8 μs = 8,000 nsを混同しない。
- Q2の20と4の単位がそれぞれ何か、4回のI/Oがどの仮定の下でだけ成り立つかを言える。
-
192.0.2.130/26のネットワーク・ブロードキャスト・利用可能範囲を白紙から求められる。 - サーバ証明書、利用者認証(MFA)、認可がそれぞれ何を確認するかを1文ずつ言える。
- Q4の0.997002と0.997999002を計算し直し、上限が0.998である理由を言える。
- Q5の応答消失シナリオを段階ごとに追跡し、テストマトリクスの4行を何も見ずに書ける。
目的別の復習計画 (公開スケジュールとは別):
- 当日:間違えた問題、または理由が誤っていた問題について、選択肢の解説でリンクした回を一つだけ選び、その回の例題を解き直す。
- 1日後:9節の表で印した誤りパターンの「点検の習慣」だけを見て、数値を変えて同じ問題を解き直す(例:Q1のページフォールト率を0.01%に、Q4の電源の稼働率を0.9995に)。
- 3日後:計算例の二つの習慣(単位の統一、依存の境界)を別のシナリオに当てはめてみる。
- 7日後:5問を最初から解き直し、今度は選択肢ごとに誤りの理由を先に書いてから解説と照合する。
11. 公式出典と改訂履歴
出題範囲の根拠は以下のIPA資料である。本文のシナリオ、数値、考え方の手順はMotitoryが作成した学習用の例であり、IPAシラバスの文言や公式の基準値ではない。
- IPA 試験要綱・シラバスの概要 — 各試験区分のシラバスを学習の指針として公開するIPAのページ(最終更新2026-07-10)。応用情報技術者試験(レベル3)シラバス(Ver.7.2)が掲載されていることを確認した。2026-10-22確認。
- IPA 応用情報技術者試験 シラバスVer.7.2(PDF) — 2節の範囲マップの根拠。大分類1〜4と6の該当する中分類(データベースは印刷p.37から、トランザクション処理p.40、システム開発技術の要件定義p.58と統合・テストp.68、ファシリティマネジメントp.92など)と照合した。2026-10-22確認。
- IPA シラバスの変更点 — シラバスの改訂履歴と変更点を確認するページ。2026-10-22確認。
- IPA 令和8年度試験情報 — 令和8年度(2026年度)の試験実施案内のページ。出題範囲ではなく試験実施の情報を確認する用途である。2026-10-22確認。
改訂履歴:
- 2026-10-22:初版公開。上記の公式資料を同日に確認した。
- 2026-10-28:9節の問題横断の誤りパターン表で、Q4 Cを「共有依存の見落とし」から分け、「直列・並列の取違え」に訂正した。Q4の問題、選択肢、正解(B)、選択肢ごとの解説は変更していない。
12. AP33–38の中での位置
本記事は固定の仕上げ計画AP33–38の5回目(AP37、診断編)である。シリーズ最後の回は管理・戦略分野の総合診断であるAP38で、AP38の後に回を追加することはない。全回はシリーズ一覧で確認できる。